人工多能性幹細胞(iPS細胞)とは

人工多能性幹細胞(Induced Pluripotent Stem Cells)とは、体細胞へ数種類の遺伝子を導入することにより、ES細胞(胚性幹細胞)のように非常に多くの細胞に分化できる分化万能性と、分裂増殖を経てもそれを維持できる自己複製能を持たせた細胞のことで、iPS細胞の呼称が有名です。
元来、生物を構成する種々の細胞に分化し得る分化万能性は、胚盤胞期の胚の一部である内部細胞塊や、そこから培養されたES細胞、及びES細胞と体細胞の融合細胞、一部の生殖細胞由来の培養細胞のみに見られる特殊能力でしたが、iPS細胞の開発により、受精卵やES細胞をまったく使用せずに分化万能細胞を単離培養することが可能となりました。

ES細胞については受精卵か、それよりも発生が進んだ初期胚が必要となる為、受精卵以降をすでに生命と見なして、堕胎に反対の立場を取っている人々から、受精卵を利用した胚性幹細胞の研究については倫理的な反対を受けており、過去にアメリカで問題になりました。

分化万能性を持った細胞は理論上、体を構成するすべての組織や臓器に分化誘導することが可能であり、ヒトの患者自身からiPS細胞を樹立する技術が確立されれば、拒絶反応の無い移植用組織や臓器の作製が可能になると期待されています。
ヒトES細胞の使用において懸案であった、胚盤胞を滅失することに対する倫理的問題の抜本的解決に繋がることから、再生医療の実現に向けて、世界中の注目が集まっています。
しかし、2011年5月現在では、米カリフォルニア大サンディエゴ校の研究チームから拒絶反応の報告がされており、どの細胞が拒絶反応を引き起こすかなどを詳しく調べるべきだとされています。

また、再生医療への応用のみならず、患者自身の細胞からiPS細胞を作り出し、そのiPS細胞を特定の細胞へ分化誘導することで、従来は採取が困難であった組織の細胞を得ることができ、今まで治療法のなかった難病に対して、その病因・発症メカニズムを研究したり、患者自身の細胞を用いて、薬剤の効果・毒性を評価することが可能となることから、今までにない全く新しい医学分野を開拓する可能性をも秘めているとも言われています。